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裏切られる体験についての心理臨床学的考察 #132

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0. 論文タイトル・URL

裏切られる体験についての心理臨床学的考察 https://repository.kulib.kyoto-u.ac.jp/dspace/bitstream/2433/219257/1/eda63_055.pdf

1. その論文の目的・どこのリサーチか

2017年、京都大学の論文で、「裏切られる体験」についての考察になります。

2. (先行研究とこれまでの問題)

Q.皆さまは「裏切られた」と感じることはありますか?

「そんな頻繁にないよー」という方もいれば、 「これまで何度も裏切られてきたので、人をあまり信じないようにしています」という方もいますし、 「人を信じたいのに、裏切られることが多いです、、」という方もいるかもしれません。

Q.裏切られるとはどういうことか? ここで裏切りという行為を整理すると次のように説明できるようでして、 1.相手への信頼、理想化、同一視、思い込みなど、相手をポジティブに感じる準備の時期がある。 2.そのポジティブな理解が実は間違っており、自分が傷つけられたり、搾取されたり、利用されたと被害的に感じるような出来事に遭遇する。

という段階があるんだそうな。 まあ信頼していない人に対して裏切られた、という言葉は使いませんもんね。

3. その論文の目的(具体的に)

そこで本研究では、 ・どういう人が裏切られたと感じやすいのか ・「裏切り」とどのように付き合っていけばよいのか について、心理臨床学の視点から考察しております。

5. 結果

考察論文ですので結果だけまとめますと、 ・裏切られ体験として 1.融合破綻型:自己概念と対象の存在を一体化して考えてしまい、その人が自分の思い通りに動かなかった時に「幻滅」した、と感じるようなタイプ。ナルシスティックな人にありがちで、対象をひとつの側面でしかとらえられない傾向にある。相手が現在置かれている状況や気分について考慮しないので、自分の思い通りにならないと、裏切られたと感じやすい。

2.ナイーヴ型:相手の複雑な心を実感を持って理解することが苦手なタイプ。相手の取った想定外の行動に傷ついた時に「裏切られた」と体験しやすい。 の2種類のタイプがある。

・被害者心理になる時(裏切られたと感じる時)に、「甘え」があることがあり、依存的関係を示すことがある。

ナイーヴ型は、特に親密な関係にある相手ではなかったとしても、裏切られたと感じやすい。そのため、比較的に多く「自分はよく人に裏切られる」という認知を抱くこともある。

・人にはオモテもウラもあり、オモテはウラを隠しもすれば表しもし、それゆえ人は相手のオモテを通してウラを読んだりもするという二重的・立体的なものであるため、裏切られ体験というのは、「オモテやウラのギャップに傷つく体験」とも言える。

・つまり、相手の「両方真である」ような複雑な心が受け入れがたい時、それに傷つけられたと感じる時にそれを「裏切られた」のだと表現する

6. 結論・まとめ

裏切られたと感じるにはまず、 ①「相手への信頼」があって、その上で ②期待や予想が異なった結果となる というメカニズムがあるようでした。

これが誰にでも発生しやすい理由として、人は常に予測をして生きています。 ・11時に家を出たら12時には待ち合わせ場所に到着するだろう ・友人に「明日遊ぼう」と声をかけたら、仕事も休みだろうしたぶん遊べるだろう ・今日は自分はすごく疲れているのだから、旦那さんはそれに気づいて料理やお皿洗いを気遣ってやってくれるだろう

など、誰しも「無意識に」こうした予測をもとに生活しているのです。 しかし、これらの例を見てもわかるように、この予測の中に「期待」が入り混じることがあります。

これが対人関係になった時に、 「相手」が自分の「予測とは異なる行動・選択をする」「期待していた行動と異なった時」に 「裏切られた」と認知することがある、ということです。 とりわけ認知の歪みを持っている場合なんかには、 ・待ち合わせに遅れてくるってことは自分のことを大切に思っていない証拠だ ・「遊ぼう」と誘って用事はないといっていたのに断られたってことは、もう自分のことを嫌いになったんじゃないか ・自分のことを気遣ってくれないということは、もう愛していないんじゃないか こんな認知を抱いてしまうことも少なくないでしょう。

最後の例にもありましたが、このことを「甘え」「依存関係」という風に表現していまして、 ナルシスティックな人にも見られることがありますが、「自分のためにこうしてくれるだろう(自分はしないけど)」 という「甘え」があり、「甘え」を持っていると裏切られ体験を経験しやすくなるのでは、というお話でした。

7. どんな使い方ができる?

本記事には書いていませんが、これを基にどうすれば「裏切られた」という誤った認知形成をせずに済むか、という対策を立てるとすると、 ・人は「無意識に」予測を立てて生活しているため、「期待しない」ということは難しい。そのため、人は「期待してしまう」ことがあるという事実を受け入れる

・その事実を認めた上で「期待」を裏切られたのではなく、「予想が外れた」のだと捉えなおす。

・対人関係に置いて裏切られたと感じる経験があったとしても、「それも自分に見えていなかった相手の一側面だ」と再認識する。

といった方法で対処できるのではないでしょうか。私も「なんか裏切られた気分」みたいに感じることはたまにありますが、 よくよう観察してみると、自分が勝手に期待して、その予想が外れただけであって、裏切られたわけではないのですね。

事実、Q.最近誰かを裏切った経験はありますか? と質問されてYesと言える人はいないでしょう。相手が自分に何を期待しているのかを知ることが少ないので、 裏切りようがないのです。 つまり、裏切られたと感じているのはいつだって「自分」であり、裏切ったとされる「本人」には自覚がないことの方がほとんどということ。認知の歪みの一つですが、勝手に相手を悪者扱いしてしまわないように気をつけたいところ、、。

※裏切りのメカニズムに関する海外の研究がほとんどなかったことと、トラウマ研究に関するものになってしまっていたので、 今回はあえて日本の研究を紹介させていただきました。しかしながら、考察論文なので「そうなんだ。そういう考え方もあるよね~」程度にとどめておいていただければと思います。それでは。