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The State of Messaging Security 2020: メールおよびメッセージングアプリのセキュリティプロトコルの現在
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The State of Messaging Security 2020:
メールおよびメッセージングアプリのセキュリティプロトコルの現在


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なぜ上記文書を書いたのか

2013年のスノーデン事件以降、PrivacyおよびSecurityは、インターネットの基盤として最重要視されるようになった。無償でTLS証明書を発行するLet's Encryptが設立され、Mozilla、Googleなどのブラウザベンダ、各大手CDNがスポンサーとなった。そういった活動などにより、日本を含む世界で、Webにおいては暗号化(HTTPS)の普及が一気に進んだ。
しかしながら、メールに関連する暗号化やセキュリティについては、特に日本において、エンドユーザ目線からの議論が十分に行われているとは言い難い。
Googleの公開する透明性レポートにおいて、メールにおけるTLS暗号化の普及率が、世界的には2014年の約30%から2020年には約90%に増加した。しかし、2020年10月時点でGmailなどから外部に送信されたメールドメインのうち、暗号化されず平文で送信されたメールのTop10のうち半分を日本(.jp)ドメインが占める状況になっており、日本ではメールにおける暗号化の議論は活発に行われなかった可能性がある。

メールは依然としてインターネットを支える根幹の技術として位置し続けている。いくら個人間コミュニケーションとしてWhatsApp、LINE、Facebook Messengerなどが普及しようとも、オープンに標準化され、誰もが使えるメッセージングプロトコルとして、メールは特定のメッセージングアプリでは置き換えることの出来ないインターネットの基盤技術である。たとえば多くのサービスは、メールを使ったパスワードリセットを提供しているし、HTTPSを支えるTLS証明書は、メールを使ったドメイン所有の確認により発行することが出来る。

メールが基盤技術として存在する一方、個人間コミュニケーションとしては、スマートフォンの普及と同時にメッセージングアプリが流行した。スノーデン事件も受け現在は主なメッセージングアプリがEnd-to-end暗号化(エンドユーザ間の暗号化)を提供している。その中、2020年10月11日、アメリカ・イギリスを始めとする機密情報の交換ネットワークであるファイブ・アイズおよび日本・インド政府から、「国際声明: End-to-end暗号化と公共の安全 (原題: International statement: End-to-end encryption and public safety)」という声明が発表された (参考: 日本経済新聞: 「対話アプリ、暗号化見直しで声明 日米英など7カ国」)。この声明では、End-to-end暗号化を行っているメッセージングアプリに対して、暗号化された内容にアクセスする手段を設けることを要請している。日本政府も署名に加わっているものの、日本国内においてEnd-to-end暗号化について、活発に議論されているわけではない。
End-to-end暗号化については、様々なアプローチや制約がある。読者がどういった意見を持つにせよ、End-to-end暗号化に賛成・反対といった単純な議論では終わらないテーマであろう。End-to-end暗号化を行うにせよ、「サービス提供者によるあらゆるコミュニケーションの保管が不可能になる方向を目指すべき」「FacebookがWhatsAppで行っているような、メッセージ以外のMetadata(コンタクトリスト・グループ参加情報・位置情報など)の取得は認めるべき」「メールのPGP暗号化のレベルのように、前方秘匿性(PFS)のない状態のみ認めるべき」「LINEのURL遷移先の取得のような、合意を取った上での一定のメッセージ内容の取得は認めるべき」「バックドアやMetadata取得は認めるが、GoogleおよびFacebook、LINEのような透明性レポートの提供を条件とするべき」など、様々な立場を取りうる。

本文書では、上記のようなPrivacyやSecurityについてのトピックを議論するための前提となる、メールの仕様・各セキュリティプロトコルの機能・制約・普及率などの現況、そしてWhatsAppやLINE、Facebook Messengerなどに代表されるメッセージングアプリのEnd-to-end暗号化プロトコル仕様を説明している。メールおよび、現在広く個人間コミュニケーションで使用されているメッセージングアプリのセキュリティ仕様について、2020年現在の状況を読者が把握できることを目指した。 本文書が、今後のより発展した議論に寄与することを期待している。

目次・各章の要点

Chapter 1: はじめに

Chapter 2: メールの仕組み

要点

Chapter 3: SMTP Over TLS(STARTTLS)の守るもの

要点

Chapter 4: メール送信元認証が守るもの

要点

Chapter 5: End-to-end暗号化のための仕様(PGPとS/MIME)

要点

Chapter 6: LINE - メール以外のメッセージングアプリの普及とEnd-to-end暗号化の始まり

要点

Chapter 7: WhatsAppとSignal - 世界的なE2E暗号化の普及

要点

Chapter 8: おわりに

参考文献

各脚注で触れた書籍・URL以外に、下記を主に参考にした

※スノーデン事件により告発されたインテリジェンス機関による諜報活動について、一個人には事実関係を把握することが難しいため、研究者による書籍を参考にしている

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