NagiYoshitsugu
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11 months ago 緒言
- RNA-Seqは，遺伝子発現を定量化する強力なツールであるが，カバレッジ異常という問題がある．カバレッジ異常は，ゲノム全体の平均的なカバレッジから大きく異なるカバレッジを示す領域を指す．カバレッジ異常は、技術的要因や生物学的要因によって引き起こされる．
- 技術的要因によるカバレッジ異常 - シーケンサーの性能や試料の準備方法などの問題によって引き起こされる． - シーケンサーの性能によって特定の領域でカバレッジが低下する可能性がある． - 試料の準備方法によって特定の領域でカバレッジが高くなる可能性がある．
- 生物学的要因によるカバレッジ異常 - 遺伝子発現の調節やDNA配列の変化などの問題によって引き起こされる． - 遺伝子発現が活発な領域では、カバレッジが高くなる． - DNA配列に変化がある領域では、カバレッジが高くなる．
- カバレッジ異常の問題点 - データの品質を低下させる． - バイアスを導入する可能性がある．
- そこで，カバレッジ異常を検出・分類・修正する方法を提案する． - カバレッジ異常の検出 - ゲノム全体の平均的なカバレッジを計算し，その値から異常なカバレッジを検出する． - Z-scoreを用いて異常なカバレッジを検出する． - カバレッジ異常の分類 - 検出された異常なカバレッジを，技術的要因によるもの・生物学的要因によるもの・両方の要因によるものに分類する． - バイオマーカーを用いて技術的要因や生物学的要因の存在を示す指標を計算する． - カバレッジ異常の修正 - 技術的要因によるカバレッジ異常は，データの再サンプリングによって修正する． - 生物学的要因によるカバレッジ異常は，バイアスの原因となる遺伝子を特定しその発現量を補正することで修正する
- 本研究の方法は，さまざまなデータセットで有効であることが示されており，RNA-Seqデータの品質を向上させ，バイアスを低減することができると期待される．
結果
異常検知と分類の概要
- SADは，トランスクリプトを読み込み，カバレッジ異常を検出および分類するツールである．
- カバレッジ異常とは，観察されたカバレッジ分布に，予想されるカバレッジと比較して．有意に過剰発現または低発現な領域が含まれているものである．
- 観察されたカバレッジ分布と予想されるカバレッジ分布は，Salmon (Patro et al., 2017) (またはRSEM (Li and Dewey, 2011))の定量ツールによって計算される．
- 観察されたカバレッジ分布は，定量ツールによって処理されたトランスクリプトの各位置に割り当てられたリードの重み付き数である．
- 定量ツールによって推定された予想されるカバレッジ分布は，各位置でリードを生成する確率である．Salmonのバイアスモデルは周囲のGC含量・シーケンスk-mer・およびリード位置を使用し，RSEMモデルはリード位置を使用してバイアスをモデル化する．
- 異常スコアは，低発現量または予想される分布の推定誤差によって混乱する可能性がある．この混乱効果を排除するために，SADは異常スコアを確率的にモデル化し，経験的p値を使用して，観察された差が統計的に有意でありトランスクリプトが異常としてラベル付けられるかどうかを判断する・
- SADの異常検出と分類のアプローチを他の定量ソフトウェアに適用するには，その定量ソフトウェアから各リードの割り当てと学習したシーケンシングバイアスモデルを出力する必要がある．
- 異なる定量ソフトウェアは，リードの割り当てとバイアスを異なる形式で出力する場合がある．したがって，それらの出力をSADが読み込めるベクトル化された観察カバレッジと予想カバレッジに変換する必要がある．
- STAR Methodsには，SalmonとRSEMからの出力を観察カバレッジと予想カバレッジのベクトルに変換する方法がまとめられている．他の定量化ソフトウェアについては，形式変換用にカスタマイズされた処理スクリプトが必要になる場合がある．
- SADは、2つの出力を生成する。 - (1) 調整不可能な異常のリスト - (2) 調整可能な異常の調整された定量化
- 予想されるカバレッジ分布が正しいと仮定すると，調整不可能な異常は参照トランスクリプトームの不完全さによって引き起こされる可能性がある．レファレンストランスクリプトームまたはレファレンススプライスジャンクションが与えられた場合，SADは参照に含まれていないアイテムを「アノテーションなし」として記述する．
- 調整可能な異常は，定量確率モデルまたは最適化アルゴリズムの誤差によって引き起こされる可能性が高い．
- 異常の分類は，LPを使用してアイソフォーム間でリードを再割り当てし，再割り当て後に異常スコアが無視できるようになるかどうかを確認することで行われる．
- 再割り当て後も異常スコアが有意な場合，異常は調整不可能な異常としてラベル付けされる．それ以外の場合は調整可能な異常としてラベル付けされる．
- LPはまた調整可能な異常に対する新しいリード割り当てセットを生成する．調整されたアバンダンス推定値は，調整可能な異常トランスクリプトの新しいリード割り当てと，他のトランスクリプトの元のリード割り当てを組み合わせることで構築される．この結合された発現定量は，SAD調整定量と呼ばれる．
検出された異常の例
- 30個のGEUVADIS (Lappalainen et al., 2013)と16個のHuman Body Mapデータセット(The Illumina Body Map 2.0 data, 2011)にSADを適用して検出された異常の例を示す．
- SADにより，Human Body Mapデータセットから腎臓サンプルのTMEM134遺伝子に修正可能な異常が同定されえた．この遺伝子の1つのアイソフォーム（ENST00000545682.5）は，その最初のスプライシングジャンクションの後に発現不足の異常がある（図1A，図S2）．
- この発現不足の異常は，別のアイソフォームENST00000537601.5からこのアイソフォームにリードを再割り当てすることで調整できる（図1B）．修正前の発現量異常のアイソフォームは他のアイソフォームの1.4倍の発現量であったが，修正後は9.0倍まで発現量の比が拡大した．
- この2つのアイソフォームは2つのスプライシングジャンクションによって互いに異なっている（図1C）．両アイソフォームのリードカバレッジと定量がより一致することで，alternative splicingの機能と効果に関する解析に役立つ可能性がある．
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Fig. 1 修正可能な異常の例 (A-C）Human Body Mapデータセットの腎臓サンプル． (A) 赤と青の点はSAD修正前の観測分布と期待値分布であり，青い影は期待値分布推定との標準偏差である．期待値分布とは，定量器によって推定された期待値分布からガウス誤差の平均を差し引いたものである．各ポイントは転写産物に沿った50-bpのビンである．異常転写産物ENST00000545682.5はその最初のスプライシングジャンクション（上）の後に発現不足があり赤枠で示す．別の転写産物が修正に関与する（下）． (B）SAD修正後の同じ転写産物ペアの分布． (C）2つの転写産物のタンパク質ドメインアノテーション．発現低下異常領域を赤枠で示す． (D-F) GEUVADISデータセットからのサンプル（アクセッションERR188088） (D)上段の転写産物ENST00000532808.5は修正可能な異常であることが同定され，その発現不足異常領域が赤枠で示されている．下段の転写産物はリードの再配置が関連する． (E) SAD修正後の観察分布と期待値分布 (F) 以前の転写産物のタンパク質ドメインアノテーション．赤枠で示したのは発現不足の異常領域．
Fig. 2 修正不可能な異常の例と特徴 (A, B）遺伝子UBE2Q1の修正不能異常の例(A) と遺伝子LIMD1の修正不能な異常の例(B)．どちらの例も Human Body Map データセットの心臓サンプルに見られる．赤と青の点は，異常転写産物の観察されたカバレッジ分布と期待されるカバレッジ分布．青の影は期待される分布推定の標準偏差，赤枠は発現不足の異常領域を示す．両遺伝子とも5′末端付近の転写産物領域は過剰発現し，3′末端付近の領域は過小発現している． (C）共通の異常転写産物の過剰発現領域と過小発現領域の位置．赤い対角線は，過剰（過小）発現領域が主に転写産物の前半（5′半）と重なる異常と，主に転写産物の後半（3′半）と重なる異常を区別している．ほとんどの異常について，過剰発現領域は主に異常転写産物の前半部分と重なり，過小発現領域は主に異常転写産物の後半部分と重なっている． (D) すべてのサンプルに共通する過小発現領域のエクソンの個数．y軸は全46サンプルで合計した数．過小発現領域は通常1つまたは部分的なエクソンしか含まない．
異常値を修正することで，発現変動の偽陽性を減少させる
調整できない異常は3'エクソンに発現不足領域があることが多い
RSEMにより検出された修正不能な異常値は，Salmonにより検出された異常値と20-50%重複する
異常の検出と分類におけるSADの精度をシミュレーションがサポートする
修正不可能な異常値が1,000ゲノムサンプルのロングリードシーケンスデータが裏付けられた
考察
手法
異常検知スコア
カバレッジ分布の確率モデル
異常スコアの統計的有意性
リードの再配置による異常の分類
再配置に関わる転写産物数減少
Salmonから期待値分布を取り出す
Salmonから観測カバレッジを抽出する
RSEMから期待値と観測カバレッジを抽出する
シミュレーション手順
特定不能な量を持つ転写産物を検出する
シミュレーションデータとリアルデータでトランスクリプトームアセンブリを実行する
一言でいうと
リードカバレッジが期待値から大きく外れている領域（=発現異常）を検知する方法，および異常の原因を推定する方法を開発した．
論文リンク
https://doi.org/10.1016/j.cels.2019.10.005
著者
Cong Ma, Carl Kingsford
ジャーナル/会議名
Cell Systems
出版日(yyyy/MM/dd)
2019/11/27