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ベターな選択 #9

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6年前に留学をした.そのときに仲良くしていた人たちとの飲み会に行った.お酒が弱いなりによく飲んでしまった.もともとそういう場に行く機会は少ないが,周りの友人も就職して忙しくなったし,パンデミックのニューノーマルを経てより出不精になっていた.二日酔いとまではいかないが,よく眠りにつけなかったので一日体調は優れなかった.

ここ数年,渋谷に行くと店にたどり着くまでに,元気がなくなってしまう.電車を降りて改札を出ると飛び込んでくる多量な情報に一瞬ハイになるが,2分も歩いていればゲンナリしてくる.足取りがみるみる重くなる.5年ほど前は毎日渋谷にいるような生活をしていたので,感覚があまりに変わってしまったのだと再認識する.特に最近は家の徒歩10分圏内で生活しているのもあるだろう.パーソナルスペースを守ることができない密度に慣れていない.

結局コロナの都合で,7人集まるはずが4人になった.あまりにも当たり前になりすぎた理由.しようがないことである.ここまで続くと「落ち着いたら」が意味するところは変わってきた.他の人たちと会えないのは残念だった. 1年ぶりのメンバーもいれば,4年ぶりのメンバーもいた.山から降りてきたの?と言われ,なんのことか3時間後に気づくくらいに,年数が経っていたことに驚いた.そういえば4年前は山奥に住んでいた.

”尖っていた”とも言われた.そうか,尖っていたのか.あのときはいまよりずっと若く,自分でも何を考えていたのかよく分からない.割と自己と他己は違って映るもので,いまから振り返ればどちらかというと病んでいただけだと思う.そういうことを考えると,会えなかった人,言わなかった言葉に注意を向けると心情に近いものが捉えられると思う.

内一人の友人は,ちょうどメガベンチャーを退職して起業するらしい.友人からそのような話は今までも聞いていたので,うれしかった.偶然にもぼくも最近事業準備に取り組んでいて,タイミングが近かった.まあそういうものなんだろう.友人との付き合いのなかで彼がそう選択することに驚きはなかったが,自分についてはあまりそういうことを想定していなかったので,やはり自分のことなんて他人のほうがよく分かるものなのかもしれない.

お店はコース料理もおいしかったし,気持ちのいいテラス席で久しぶりにスパークリングワインも飲んで気分がよかった. 2軒目は一人のメンバーから,彼氏が別の場所で5人で飲んでるので,合流しようという提案があった.久しく新しい交友関係,そこまでいかずとも接触というものがなかったので,怯んだ.というか,最近はそういう機会を意識的に避けていた.それに8人以上の飲みの場は経験的にきつい.大体はその場を茶化して,よく知っているすぐ近くのお店へ行くのがベターだった.

結局,不可抗力的に合流することになった.3人以上いた時のその場のノリには勝てない.

三軒茶屋へ向かうタクシーの中,変わらず笑って会話していたが,明らかに緊張が高まっていた.

しかし,行って正解だった.

店に入って十数分は,人見知ってしまったが,30分後には久しぶりに腹筋がつるほどに笑っていた.裏笑いではあったが,ぎこちない状況の中で,あるひとの表情や行動が重なった面白さがあり,笑うのがきつくて必死に仕事のことを考えたほどである.まさに緊張の緩和であった.優しく安心感を纏った即反射的な一種の身体的コミュニケーションのパターンが,学生時代にいたどこまでも優しい先輩とのノリで,ノスタルジーを伴う面白さがあった.

すごく良い人達で,初対面の人が複数いる中でもうまく楽しめて盛り上げられる力量はすごい.三軒茶屋の奥深さを垣間見ることができた.正直名前はだれも覚えていない.ああいう場では名前よりも優先されることが多いだろう.

3軒目のダーツバーでもひとしきり楽しんで,元々のメンバーと共に途中で抜けたが,もう少しお礼をきちんと言えばよかった.悪い飲み方はしていないが,お酒の場は楽しいし細部は覚えていないうえ,気分の揺り戻しか,次の日に反省することが多い.

ある程度ベターな選択を想定できてしまうようになったがゆえに,不確実性の高い選択をしないようになっていたことを改めて認識した.

帰路が同じ方向の友人とタクシーで帰った.車中は,かつてルームシェアをしていた当時のように技術や態度の話ができてたのしかった.

途中下車して30分ほど歩いて帰ったが,適度に歩くのは酔い醒ましに良い.迷ったらより分からない方の道に行ってみるのもたまにはいい.