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Making Progress on the Effort Paradox: Progress Information Moderates Cognitive Demand Avoidance https://escholarship.org/uc/item/58f4476f
2021年にマギル大学らが行った努力のパラドックスに関する研究になります。
前回紹介したトロント大学のレビューでは、 努力のパラドックスの仕組みについてお話してきました。 ざっくりまとめておくと、 ・「努力のパラドクス」とは、努力することで、同じものの価値がより高い価値のあるものに感じられる
・「努力」は価値を生み出す装置である
・苦痛な努力や体験を行うと、日常にコントラストが与えられるため、いつも通りのことや、当たり前のことに対して幸福感を感じやすくなる
・「努力」一度は手をつけてしまえば、段々と楽になっていくので、いかに小さく始められるかもコツ みたいなお話でした。
その時にも少し触れたのですが、心理学には「最小労力の法則」というものがあり、 同じような報酬の選択肢を与えられたとき、生物はより多くの仕事や努力を必要とするものを避けるようとすることがわかっていまして、 このことから、人は努力に対して本質的には回避的であるという結論に至っております。
とはいえ、人の活動の中には、努力を要するからこそ価値がある、というものもあります。 将来やりたいことのために勉強したり、自分の成し遂げたいことのために仕事をすることだったり。 そのため、一概にすべてのことに努力を避けようとするわけでもありません。
そこで本研究では「努力のパラドックス」とは、どのような特徴を持つタスクが回避的な選択になり、 どのような特徴があれば努力すべきタスクだと区別するのか、ということを調べてくれました。 つまり、ある特徴が存在すれば、ある特徴が存在しない場合よりも「これは努力する価値のあるタスクだ」 という認知が高まることはあり得るのか?ということですな。
実験1と2があり、1ではうまくいかなかった部分があったようなので実験2を紹介します。 107名の参加者を対象に、DST(Demand Selection Task)というものをやってもらいます。 これは選択フェーズと判断フェーズに別れていまして、 まず選択フェーズでは、画面に表示された2つの山札から、どちらかを選択してもらいます。 すると、画面に数字が表示されます(例えば、3)。 ・その数字が緑で表示されている場合には→5より大きいかどうかを判断 ・その数字がオレンジで表示されている場合には→偶数か奇数で判断 というシンプルな課題です。
とはいえ、間違わないようにやると、かなり集中力を使いますし何より難しいのは、最初に選ぶ山札によって 10、50、90%の確率で、緑で表示されるかオレンジで表示されるかが切り替わる仕組みになっているところ。 つまり90%で切り替わる山札を選んでしまうと、緑の次はオレンジ、その次は緑、、、というように認知的労力が大きくなってしまうのでかなり大変ですね。。(笑)
そしてこの実験のもうひとつの工夫は、2分の1の確率でフィードバック進捗があるかないかが分かれます。 各試行は8~22回(平均13回)で1セット、これを4セットやってもらいます。
その後参加者には、NASA Task-Load Indexという質問紙に回答してもらい、 ・自分自身がどのデッキを選ぶ傾向があったか ・それぞれのタスクに違いを感じたか ・あるタスクは他のタスクより難しいと感じたか? などを質問し、参加者が法則に気づき、簡単なタスクを選ぼうとしたのか、フィードバックがあるタスクを選ぼうとしたのか、などを調べたんだそうな。
その結果何がわかったかといいますと、 ・参加者は進捗がわかる山札と見つけると、進捗のわからない課題よりも、進捗がわかる課題をより好むように選択した
・課題の難易度が同じであれば、進捗がわかる課題の方を選択した
・進捗がわかる場合、課題の難易度がたとえ高くとも、進捗がわかること課題を優先して選択した。
この結果に対して研究者は、
進歩はエージェントの目標達成への動機を高めることにより、努力コストを相殺する。これは、認知的努力研究の観点から考えると、進歩情報には固有の価値があり、努力の固有コストと比較すると、努力の投資を有利にするコスト・ベネフィット分析に傾くことを示唆するものである。
とコメントしておりました。
なんでもおもしろかったのは2013年の先行研究によると、報酬に対して反応する脳領域(背側皮質核と腹側線条体)と、 進捗に対して反応する脳領域は同じ部分が活性化することがわかっているそうで、このことを踏まえると、 報酬と同じくらい進捗(プロセス)が重要ともいえるのではないか、ということが示唆されるわけです。
まとめると、努力のパラドクスは「努力することで、同じものの価値がより高い価値のあるものに感じられる」 という効果でしたが、どんな要素があれば努力すべきだ、と思えるのかまではわかっていませんでした。 本研究の結果からすれば、「進捗状況がわかるかどうか」が、課題(タスク)が困難・苦痛でも努力に値する、というように認知するようにできている、という結果でした。
こうなると、「報酬が良ければそれでいい」と考えられてきたこともかなり覆りますね。 報酬を良くしたところで、フィードバックがないと苦しいし、持続可能でなくなってしまう。 逆にフィードバックや進捗がわかるだけで、困難な課題に取り組めるのであれば、むしろ報酬よりも重要なのでは?とも思えるほど。 何かのシステムを構築する際や日常生活にも、このお話はかなり参考になるのではないでしょうか~。
0. 論文タイトル・URL
Making Progress on the Effort Paradox: Progress Information Moderates Cognitive Demand Avoidance https://escholarship.org/uc/item/58f4476f
1. その論文の目的・どこのリサーチか
2021年にマギル大学らが行った努力のパラドックスに関する研究になります。
2. (先行研究とこれまでの問題)
前回紹介したトロント大学のレビューでは、 努力のパラドックスの仕組みについてお話してきました。 ざっくりまとめておくと、 ・「努力のパラドクス」とは、努力することで、同じものの価値がより高い価値のあるものに感じられる
・「努力」は価値を生み出す装置である
・苦痛な努力や体験を行うと、日常にコントラストが与えられるため、いつも通りのことや、当たり前のことに対して幸福感を感じやすくなる
・「努力」一度は手をつけてしまえば、段々と楽になっていくので、いかに小さく始められるかもコツ みたいなお話でした。
その時にも少し触れたのですが、心理学には「最小労力の法則」というものがあり、 同じような報酬の選択肢を与えられたとき、生物はより多くの仕事や努力を必要とするものを避けるようとすることがわかっていまして、 このことから、人は努力に対して本質的には回避的であるという結論に至っております。
とはいえ、人の活動の中には、努力を要するからこそ価値がある、というものもあります。 将来やりたいことのために勉強したり、自分の成し遂げたいことのために仕事をすることだったり。 そのため、一概にすべてのことに努力を避けようとするわけでもありません。
3. その論文の目的(具体的に)
そこで本研究では「努力のパラドックス」とは、どのような特徴を持つタスクが回避的な選択になり、 どのような特徴があれば努力すべきタスクだと区別するのか、ということを調べてくれました。 つまり、ある特徴が存在すれば、ある特徴が存在しない場合よりも「これは努力する価値のあるタスクだ」 という認知が高まることはあり得るのか?ということですな。
4. 方法
実験1と2があり、1ではうまくいかなかった部分があったようなので実験2を紹介します。 107名の参加者を対象に、DST(Demand Selection Task)というものをやってもらいます。 これは選択フェーズと判断フェーズに別れていまして、 まず選択フェーズでは、画面に表示された2つの山札から、どちらかを選択してもらいます。 すると、画面に数字が表示されます(例えば、3)。 ・その数字が緑で表示されている場合には→5より大きいかどうかを判断 ・その数字がオレンジで表示されている場合には→偶数か奇数で判断 というシンプルな課題です。
とはいえ、間違わないようにやると、かなり集中力を使いますし何より難しいのは、最初に選ぶ山札によって 10、50、90%の確率で、緑で表示されるかオレンジで表示されるかが切り替わる仕組みになっているところ。 つまり90%で切り替わる山札を選んでしまうと、緑の次はオレンジ、その次は緑、、、というように認知的労力が大きくなってしまうのでかなり大変ですね。。(笑)
そしてこの実験のもうひとつの工夫は、2分の1の確率でフィードバック進捗があるかないかが分かれます。 各試行は8~22回(平均13回)で1セット、これを4セットやってもらいます。
その後参加者には、NASA Task-Load Indexという質問紙に回答してもらい、 ・自分自身がどのデッキを選ぶ傾向があったか ・それぞれのタスクに違いを感じたか ・あるタスクは他のタスクより難しいと感じたか? などを質問し、参加者が法則に気づき、簡単なタスクを選ぼうとしたのか、フィードバックがあるタスクを選ぼうとしたのか、などを調べたんだそうな。
5. 結果
その結果何がわかったかといいますと、 ・参加者は進捗がわかる山札と見つけると、進捗のわからない課題よりも、進捗がわかる課題をより好むように選択した
・課題の難易度が同じであれば、進捗がわかる課題の方を選択した
・進捗がわかる場合、課題の難易度がたとえ高くとも、進捗がわかること課題を優先して選択した。
6. 結論・まとめ
この結果に対して研究者は、
とコメントしておりました。
なんでもおもしろかったのは2013年の先行研究によると、報酬に対して反応する脳領域(背側皮質核と腹側線条体)と、 進捗に対して反応する脳領域は同じ部分が活性化することがわかっているそうで、このことを踏まえると、 報酬と同じくらい進捗(プロセス)が重要ともいえるのではないか、ということが示唆されるわけです。
7. どんな使い方ができる?
まとめると、努力のパラドクスは「努力することで、同じものの価値がより高い価値のあるものに感じられる」 という効果でしたが、どんな要素があれば努力すべきだ、と思えるのかまではわかっていませんでした。 本研究の結果からすれば、「進捗状況がわかるかどうか」が、課題(タスク)が困難・苦痛でも努力に値する、というように認知するようにできている、という結果でした。
こうなると、「報酬が良ければそれでいい」と考えられてきたこともかなり覆りますね。 報酬を良くしたところで、フィードバックがないと苦しいし、持続可能でなくなってしまう。 逆にフィードバックや進捗がわかるだけで、困難な課題に取り組めるのであれば、むしろ報酬よりも重要なのでは?とも思えるほど。 何かのシステムを構築する際や日常生活にも、このお話はかなり参考になるのではないでしょうか~。