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Multidimensional Change in Therapeutic Communities for Addictions: The Interplay Between Participant Characteristics, Perceptions of the TC Treatment Process and Time in Treatment https://www.tandfonline.com/doi/abs/10.1080/1556035X.2017.1307154
2017年にゲント大学が行った治療コミュニティ(Therapeutic community)に長期的に所属することが参加者にどのような変化を与えるのか?ということを調べた研究になります。
治療コミュニティ(therapeutic communities)は、精神的な健康や、喫煙、飲酒、薬物依存症の治療を目的とした特殊な治療環境のことで、参加者が集団生活を送りながら、個人的な成長や回復を促進することを重視しています。 依存症のような問題をひとりで改善することは非常に難しいので、自分と似たような境遇を持つ人と一緒に治療に臨むことで、改善を促進できることがわかっています。 コミュニティでは専門のスタッフやカウンセラーが参加者をサポートし、集団セラピーや個別セラピー、治療プログラムなどの活動を実施していまして、コミュニティの特徴としては以下のようなものが挙げられます。
共同体への参加: 参加者は共同体の一員として扱われ、集団内での役割と責任を持ちます。共同生活の中で、コミュニケーション、協力、信頼の構築が重要な要素となります。
社会的なサポート: 参加者は互いにサポートし合い、お互いの回復や成長を支援します。共同体の中での相互作用やグループセラピーによって、参加者は自己認識を深め、人間関係のスキルを向上させることができます。
構造化されたプログラム: 治療共同体では、日々の活動やルーティンが重要な役割を果たします。参加者は、グループセッション、個別セラピー、教育プログラム、職業訓練などの活動に参加しながら、自己成長を促進します。
自己責任の強調: 参加者は自己責任を持ち、自己成長することが求められます。自己制御のスキルや問題解決能力の向上を通じて、持続的な回復を実現することが目指されます。
実際に治療コミュニティに参加することで、コミュニティに長く所属するほど、薬物使用の再犯が減ったり、治療後の断薬期間も長くなることがわかっています。 ですが、治療コミュニティの課題として、プログラムに参加した参加者のうち、多くが最初の3カ月に早期に治療をやめてしまうことがわかっています。長くコミュニティに所属することで大きなメリットが得られるものの、早い段階でドロップアウトしてしまうのですね。 ですが、これまでの研究で、ドロップアウトを予測する要因が何であるか、ということについてはよくわかっていないのだそう。
そこで本研究では、 ・長期的に所属することが参加者にどのような変化を与えるのか? ・長期的にコミュニティに所属する人と、ドロップアウトしてしまう人にはどんな違いがあるのか? ということを調べてくれました。
Therapeutic communityに約1年間所属している、155人の薬物乱用者を対象に、以下の質問紙に回答してもらいます。 ・DCI(Dimensions of Change Instrument):治療の効果を測定するための指標(どの程度依存症から回復しているか) ・パーソナリティ特性:DSM-IV人格障害評価法(ADP-IV) ・心理的幸福度(心理的苦痛):Brief Symptom Inventory, GSI(Global Severity Index) ・治療に対するモチベーション:Circumstances Motivation Readiness and Suitability Scales(CMRS)
これらの質問紙に治療開始の1か月後、4か月後、10カ月後に測定。 コミュニティに所属することで、時間の変化とともにどんな変化があったのかを調べました。 ちなみに参加者は、重度の薬物乱用者であり、平均して5年以上も薬物を使用していた他、参加者の94%は1日に一回は薬物を使用していたほどでした。
この研究のおもしろいところは、治療コミュニティで行っていること以外に、研究者が具体的な介入を行っていないということです。 なので、似たような境遇にいるメンバーと同じコミュニティに所属することで得られるメリットがわかるわけですね。
・コミュニティに所属している期間が長いほど、治療コミュニティへの所属意識(コミットメント)が強くなっていった。 ・意外なことに、外的な動機づけ(仕方なく~とか、強制的に~とか)が高い状態で参加した人や、治療コミュニティが自分には合っていないんじゃないか、と疑問を持っていた参加者は、他の参加者よりも早い段階で態度・認識の変化を起こしていた。 →早い段階で認識の変化を起こす参加者ほど、治療コミュニティが行っていることの意義や価値、信念の理解をしている傾向が高かった。 ・また、感情的な参加者や不規則な行動が多い参加者は、内省や自己管理能力は低かったが、時間の経過とともに差がなくなり、DCIのスコアも改善していった。 →問題のある参加者だったとしても、治療コミュニティに所属する期間が長ければ効果は得られるといえる。 ・治療期間中に、心理的苦痛のスコアが高まった参加者は、時間の経過とともに内省と自己管理のスコアが減少した。 →ドロップアウトしてしまったり、うまく適応できない参加者は、内省や自己管理がうまくいっていない傾向がある。 もともと内省に自信がなかった人でも、治療期間中に内省のスコアが改善していく参加者もいたため、 内省や自己管理を行うことで心理的にネガティブな影響が出てしまうことでうまくいかない人もいる。 (自尊心が低い人や、社会的不安が高い人に内省を促すと、より自尊心が低下したり、不安感が高まってしまうことがわかっているため、その辺りも影響していると考えられる)
研究者は「本研究の結果は、当初は治療コミュニティに対して懐疑的であったり、治療へのプレッシャーを感じていた参加者でも、学習に対してオープンで感受性が高く、最終的にはコミュニティへの関与のレベルを深めていったことを示した。このような変化は、参加者が外的動機から内的動機へと変化したためなのか、それとも最初から内発的動機を持っていたためなのかは、まだ不明である。」と述べておりまして、コミュニティに対する認識が外発的動機づけであったとしても、オープンマインドで理解しようとできる人は行動や認知の変化を起こせるみたいですね。
また、内省や自己管理に失敗してしまうと、逆に心理的苦痛が高くなってしまい、治療が難しくなってしまう人もいるようでした。 逆に内省がうまくいっている人は治療の恩恵をかなり得られていたので、内省・自己管理はドロップアウトにつながる予測因子と言えるかもしれませんね。
コミュニティに所属しているだけでも、コミュニティへのコミットメントや治療の効果が十分に得られることを示した研究でございました(そのコミュニティの活動に参加する必要はありますが)。 そう考えると、 ・コミュニティ内できちんと自分のやることが決まっている ・コミュニティでの活動を通して、内省や、自分の成長の実感が得られる という要素があれば、ドロップアウトしにくくなるんだろうなーと。私も最近つくづく思いますが、人間は人間関係やコミュニティといった「他者」から影響を受けて、変化・成長・気づきを得る生き物だからこそ、アイデンティティや行動が変化する時には「他者」の存在は思った以上に必要不可欠なんだろうなーって気がしてきています。 私は他者との関わりを避けてきた生き方をしてきたのですが、私も他者の影響で心境の変化があったので、この研究は勉強になりましたなー。
0. 論文タイトル・URL
Multidimensional Change in Therapeutic Communities for Addictions: The Interplay Between Participant Characteristics, Perceptions of the TC Treatment Process and Time in Treatment https://www.tandfonline.com/doi/abs/10.1080/1556035X.2017.1307154
1. その論文の目的・どこのリサーチか
2017年にゲント大学が行った治療コミュニティ(Therapeutic community)に長期的に所属することが参加者にどのような変化を与えるのか?ということを調べた研究になります。
2. (先行研究とこれまでの問題)
治療コミュニティ(therapeutic communities)は、精神的な健康や、喫煙、飲酒、薬物依存症の治療を目的とした特殊な治療環境のことで、参加者が集団生活を送りながら、個人的な成長や回復を促進することを重視しています。 依存症のような問題をひとりで改善することは非常に難しいので、自分と似たような境遇を持つ人と一緒に治療に臨むことで、改善を促進できることがわかっています。 コミュニティでは専門のスタッフやカウンセラーが参加者をサポートし、集団セラピーや個別セラピー、治療プログラムなどの活動を実施していまして、コミュニティの特徴としては以下のようなものが挙げられます。
共同体への参加: 参加者は共同体の一員として扱われ、集団内での役割と責任を持ちます。共同生活の中で、コミュニケーション、協力、信頼の構築が重要な要素となります。
社会的なサポート: 参加者は互いにサポートし合い、お互いの回復や成長を支援します。共同体の中での相互作用やグループセラピーによって、参加者は自己認識を深め、人間関係のスキルを向上させることができます。
構造化されたプログラム: 治療共同体では、日々の活動やルーティンが重要な役割を果たします。参加者は、グループセッション、個別セラピー、教育プログラム、職業訓練などの活動に参加しながら、自己成長を促進します。
自己責任の強調: 参加者は自己責任を持ち、自己成長することが求められます。自己制御のスキルや問題解決能力の向上を通じて、持続的な回復を実現することが目指されます。
実際に治療コミュニティに参加することで、コミュニティに長く所属するほど、薬物使用の再犯が減ったり、治療後の断薬期間も長くなることがわかっています。 ですが、治療コミュニティの課題として、プログラムに参加した参加者のうち、多くが最初の3カ月に早期に治療をやめてしまうことがわかっています。長くコミュニティに所属することで大きなメリットが得られるものの、早い段階でドロップアウトしてしまうのですね。 ですが、これまでの研究で、ドロップアウトを予測する要因が何であるか、ということについてはよくわかっていないのだそう。
3. その論文の目的(具体的に)
そこで本研究では、 ・長期的に所属することが参加者にどのような変化を与えるのか? ・長期的にコミュニティに所属する人と、ドロップアウトしてしまう人にはどんな違いがあるのか? ということを調べてくれました。
4. 方法
Therapeutic communityに約1年間所属している、155人の薬物乱用者を対象に、以下の質問紙に回答してもらいます。 ・DCI(Dimensions of Change Instrument):治療の効果を測定するための指標(どの程度依存症から回復しているか) ・パーソナリティ特性:DSM-IV人格障害評価法(ADP-IV) ・心理的幸福度(心理的苦痛):Brief Symptom Inventory, GSI(Global Severity Index) ・治療に対するモチベーション:Circumstances Motivation Readiness and Suitability Scales(CMRS)
これらの質問紙に治療開始の1か月後、4か月後、10カ月後に測定。 コミュニティに所属することで、時間の変化とともにどんな変化があったのかを調べました。 ちなみに参加者は、重度の薬物乱用者であり、平均して5年以上も薬物を使用していた他、参加者の94%は1日に一回は薬物を使用していたほどでした。
この研究のおもしろいところは、治療コミュニティで行っていること以外に、研究者が具体的な介入を行っていないということです。 なので、似たような境遇にいるメンバーと同じコミュニティに所属することで得られるメリットがわかるわけですね。
5. 結果
・コミュニティに所属している期間が長いほど、治療コミュニティへの所属意識(コミットメント)が強くなっていった。 ・意外なことに、外的な動機づけ(仕方なく~とか、強制的に~とか)が高い状態で参加した人や、治療コミュニティが自分には合っていないんじゃないか、と疑問を持っていた参加者は、他の参加者よりも早い段階で態度・認識の変化を起こしていた。 →早い段階で認識の変化を起こす参加者ほど、治療コミュニティが行っていることの意義や価値、信念の理解をしている傾向が高かった。 ・また、感情的な参加者や不規則な行動が多い参加者は、内省や自己管理能力は低かったが、時間の経過とともに差がなくなり、DCIのスコアも改善していった。 →問題のある参加者だったとしても、治療コミュニティに所属する期間が長ければ効果は得られるといえる。 ・治療期間中に、心理的苦痛のスコアが高まった参加者は、時間の経過とともに内省と自己管理のスコアが減少した。 →ドロップアウトしてしまったり、うまく適応できない参加者は、内省や自己管理がうまくいっていない傾向がある。 もともと内省に自信がなかった人でも、治療期間中に内省のスコアが改善していく参加者もいたため、 内省や自己管理を行うことで心理的にネガティブな影響が出てしまうことでうまくいかない人もいる。 (自尊心が低い人や、社会的不安が高い人に内省を促すと、より自尊心が低下したり、不安感が高まってしまうことがわかっているため、その辺りも影響していると考えられる)
6. 結論・まとめ
研究者は「本研究の結果は、当初は治療コミュニティに対して懐疑的であったり、治療へのプレッシャーを感じていた参加者でも、学習に対してオープンで感受性が高く、最終的にはコミュニティへの関与のレベルを深めていったことを示した。このような変化は、参加者が外的動機から内的動機へと変化したためなのか、それとも最初から内発的動機を持っていたためなのかは、まだ不明である。」と述べておりまして、コミュニティに対する認識が外発的動機づけであったとしても、オープンマインドで理解しようとできる人は行動や認知の変化を起こせるみたいですね。
また、内省や自己管理に失敗してしまうと、逆に心理的苦痛が高くなってしまい、治療が難しくなってしまう人もいるようでした。 逆に内省がうまくいっている人は治療の恩恵をかなり得られていたので、内省・自己管理はドロップアウトにつながる予測因子と言えるかもしれませんね。
7. どんな使い方ができる?
コミュニティに所属しているだけでも、コミュニティへのコミットメントや治療の効果が十分に得られることを示した研究でございました(そのコミュニティの活動に参加する必要はありますが)。 そう考えると、 ・コミュニティ内できちんと自分のやることが決まっている ・コミュニティでの活動を通して、内省や、自分の成長の実感が得られる という要素があれば、ドロップアウトしにくくなるんだろうなーと。私も最近つくづく思いますが、人間は人間関係やコミュニティといった「他者」から影響を受けて、変化・成長・気づきを得る生き物だからこそ、アイデンティティや行動が変化する時には「他者」の存在は思った以上に必要不可欠なんだろうなーって気がしてきています。 私は他者との関わりを避けてきた生き方をしてきたのですが、私も他者の影響で心境の変化があったので、この研究は勉強になりましたなー。